IC計算機の設計自動化

計算機の設計に計算機を使うということは、現在では当たり前ですが、1960年代の富士通ではそれが夢でした。
F270-30を実験材料にして、IC計算機の設計自動化のシステムが開発され、F230-60という当時の超大型計算機の開発に使用されました。 これは、その報告で富士通の技術雑誌「FUJITSU」1968vol19 no.1 (1968年1月)に発表されました。
  • IC計算機の設計自動化の最初のページです。
    第三世代の計算機であるIC計算機の設計のために開発されたDAS-2 システムは、 F230-50を使用して、すでにF270-30やF2630-60の開発に適用され、 設計の精度向上、設計期間の短縮、設計能力の増大などに多大な効果をあげている。とあります。

  • 英語の概略
  • その1
    このシステムの特徴はか、IC計算機の設計・製造が一つのまとまったシステムとなっているところに大きな特徴があります。 設計者が回路図をつくってそれを、いったん計算機に入力すると、 それから論理シミュレーションが行えるし、プリント板の設計情報が作られて、プリント板製造機械をコントロールする。 回路図はこのファイルから印刷される。そのほかの製造情報も作られます。
    IC計算機には、ICを多層プリント板に搭載したので、このプリント板のパターン設計ならびに、多層プリント板の 製造が大きな問題でした。
    F270-30のときには、これらのシステムが未完成だったので、プリント板のパターン設計やパターン作成、多層プリント板の 製造は人手でおこなったので、間違いが多く試験調整は非常に大変でした。
  • その2
    DAS-2システムのフローチャートを示す。
  • その3
    使用計算機は、F230-50で、カードから入力して、磁気テープにファイルを蓄積します。 当時はF230-50は富士通の最上位機種で、高価であり簡単には使えなかった。しかし、計算機の開発にために いろいろと苦労をして、結果的にはかなりの台数を確保して、計算機の開発のために使用することになりました。 これが、富士通の計算機の開発速度を早めて、計算機ビジネスに寄与した実績は大きいと考えられます。

    論理マスタファイルの作成
    この写真にあるのが、論理カードです。設計者は最初に紙の上に論理回路図を書きます。 この回路図からこの論理カードを作ります。 設計された回路図は当時大量に雇っていたパートの女性たちの手で、パンチ用紙に書き込まれて、これが外注に出されて、このカードがパンチされます。 回路記号、出力端子、回路番号、no.1 ..信号名称 などの項目があります。 回路図から全部の情報をこのカード経由で入力して、論理マスターファイルを作成します。 この経過で、設計条件のチエックを行い、論理シミュレーションを行います。

  • その4
    布線表のサンプル この布線表をみて、バックパネルの配線(ラッピッグによる配線)を行います。 線材、どこからどこへ、回路名称(回路図との対応) 線長などがリストになっていて、工場ではこれをみて、布線作業をします。
  • その5
    論理マスターファイルが完成すると、これをもとに実装設計を行います。 論理回路をプリント板単位に分割し、ICをプリント板に割り付け、プリント板端子を割り付け、バックパネル上のプリント板位置を割りつけます。
    これらの情報をいれたのが、総合マスタファイルです。
    論理シミュレーション
    ICを使って、多層プリント板に実装するようになると、組み立てた後での変更は非常に難しくなります。そのために、製造する前の 完全な事前チエックが必要となります。
    もちろん、設計者が自分でチエックをしますが、見落としがあります。論理シミュレーションは、回路を実際に動作させることを疑似してみて、論理設計を確認します。
  • その6
    論理シミュレーションのブロックダイアグラム
  • その8
    論理シミュレーションの出力のサンプルです。 1967.5.07 の日付のある、230-60のセレクタチャネルのサンプルです。 上に回路図記号 信号名称 があり、クロックが進むにしたがって、その論理値が出力されています。
    この出力はラインプリンタですが、上下に波うっています。当時のラインプリンタの実力でした。
  • その7
    回路図の自動作図
    これまで、富士通の製造システムでは、設計者が設計図を紙の上に書いて、それが設計の基本図面として使われてきました。 富士通がジーメンスから製造ノウハウを受け入れて、メーカとしての体制を整えてきた製造システムの基本でした。 この方式の問題点の一つは、設計変更に関することでした。設計間違いや仕様変更にさいして、実際の装置を改造してゆくのですが、 時としてこの変更が回路図に反映されず、出来上がった装置と回路図が一致しないようなことが起こりました。 正確に人手でメンテナンスして行けばこんなことは起きないのですが、なかなか実態としては難しいことでした。 これらを解決するためには、回路図をコンピュータでメンテナンスして、回路図を手書きではなく、コンピュータから出力することが 必要でした。
    このために開発したのが、回路図の自動作図のプログラムです。270-30を開発していたころはまだこのソフトがなく、 手書きでやっていましたが、回路図を機械から出力するのが夢でした。
    回路図も最初から、機械で出力しやすいような形式で作りました。
  • その9
    論理シンボルは四角の箱にかきました。
  • その10
    論理回路図のサンプルです。 ラインプリンタの精度が悪く、線が波うっています。右半分と左半分を張り合わせてあります。 最初にこの図面を見たときには、感慨無量でした。 従来の手書き図面やそれを数度にわたって修正した図面では、誤りが多く、装置の検査や保守が大変でした。
  • その11
    ラインプリンタには回路図印刷用の特殊活字をいれました。 論理回路図は1枚あたり、45秒かかりました。

    プリント板の自動配線設計
    ICを搭載しているプリント板は多層プリント板で、この設計に計算機を使い人手でなく自動的に設計し、またこのデータで 自動的に製造することが大切でした。 論理回路図をもとに、多層プリント板のパターンを設計し、パターンを自動作図機で作成し、スルーホールの穴を自動孔明機で明けました。また、プリント板のパターンを自動試験機で試験しました。
  • その12
    プリント板には、6×9個(54個)のICを搭載しました。信号層は2層で、XとYの信号線です。
  • その13
    プリント板の穴あけ図面です。 下はICの実装図です。
  • その14
    これは配線パターンの図面です。これも計算機から出力したものです。
  • その15
    ICプリント板の自動診断
    実装されたICプリント板は、F270-20でコントロールされる自動試験機で試験されました。 アダプタ経由で、試験機に接続して、試験データを入力して、プリント板の応答を調べて、プリント板の試験をしました。
  • その16
    自動試験機の外観です。
  • その17
    自動試験機の診断結果など
    自動試験機で不良と判定されて故障個所が正確に示されるものはよいのですが、故障個所がよく分からないものを修理するのは 結構大変でした。